「天使のゆりかご」

( バレンタイン )



【でっかい白亜のチョコっと作戦】




 ――2月の中旬、14日。
 天候的には、まだちょっと肌寒いぐらいで、取り立てて大騒ぎすることも少ない季節。
 だが人類には、この日、年に一度の恐ろしい24時間が待っている――。




『なに作ってるのれすか、リカコしゃま』
 お気に入りの白衣にシミをつけながら、台所で懸命に何かを作っているリカコに、助手ロボットのランチーは言った。
 リカコは満面の笑みで顔を上げる。
「できたわ! 見なさい、ランチー!」
『お、おぉぉぉぉ! こ、これは!』
 ランチーは目を見開いた。
「バレンタイン風――ギョウザよ」
『チョコと挽肉が混ざり合って、見た目もニオイも激しくバイオハザードなのれすー!』
「ふっふっふ、お世辞が上手ねぇ」
『わりとガチなんれすけど、気づかないリカコしゃま素敵れす!』
 純粋な笑顔で思ったことをぽんぽん発言するランチーと、それを全く悪口だと感じていないリカコ。
 ランチーは、ふと小首を傾げる。
『でも、なんでチョコだったのれすか? いつものリカコしゃまなら、あきらかに人類どころか無機物のロボでもできれば遠慮したい物体を混ぜるはずなのれす……』
「え? ありゃ、バレンタインのデータを入れ忘れてたわ」
 リカコは白衣のポケットから出したUSBを、ランチーに挿した。
『あひん。ロボはこういうときに便利れ……あばばばばばばばば』
「ん?」
『ぐあああああああ!! や……やめてくれえええ! もうたくさんだぁぁあああ!!!』
「……男子校のデータじゃダメだったかしら」
『;ォ喜寿yht下t5t6y7うじこlp;:;うyt6r4!!!!!』


「……なにやってるんだ、奴らは」
 研究施設の台所から聞こえてくるランチーの奇声に、SP――セキュリティ・ポリスの黒服を着た女性、マリはため息をつく。
「奴らに助言を請うぐらいなら、あのバカ乳メイドどもに頼んだ方が少なくとも身の危険はないか……」
 くるりときびすを返したマリは、どうしたものかと頭を抱える。
 目下の悩みは、彼女が敬愛して止まない「お嬢様」のことだった。




「ふん♪ ふん♪ ふふ~ん♪」
 かわいらしい鼻歌が、辺りに響き渡る。
 歌声の主が見つめる先は、溶岩地獄にも似た、灼熱の流動物質。
 棒でゆっくりぐるぐるかき混ぜられる大量のチョコレートは、これまた巨大な鍋の中で、どろどろと渦巻いていた。
「あとは、えっと……これを型に入れたら、冷やして固めるだけですね」
 とある事情から、身長300メートルになってしまった「お嬢様」――白亜が、ふぅーと額を拭った。
 一見すると、おハシよりも重いものを持ったことがなさそうな容姿だが、実際には電車も持ち上げられる大巨人である。
 今、チョコを溶かしている鍋も、普通の人間が入り込んだら底なし沼のように飲み込まれ、高温で焼き殺されるか、生きていても固まったチョコの中に閉じ込められてしまうだろう。
 白亜がチョコをあげるつもりの相手は「普通サイズ」なので、余った分は白亜が食べる。紛れた者は余ったチョコと一緒に、白亜のおなかに収まってしまうはずだった。
「……それにしても、よく集めたな。そのチョコレート」
 白亜のメイド(にされてしまった)、雪芽が聞こえよがしにつぶやいた。
 こちらは派手なゴスロリ服で、身長は100メートル程度。
 白亜と比べれば小さいが、じゅうぶん巨人だ。
「うふふ。品種改”造”された、巨大カカオ豆をいただきました」
「……なんでもありだな」
「そうですね、今はマリもいませんから……味見してみますか?」
 ぴく、と雪芽の顔に嫌な笑顔が浮かんだ。
「……いいのか?」
「ええ。感想が欲しいんです」
 にっこりする白亜に、雪芽はニヤリと笑った。
 マズイと言ってやった途端、この余裕ぶった笑みがどう変わるか見てみたい――
 ハシの先ですくったチョコを冷やし、口に入れた。

「あばばばばばばばばばばば」

 揺れ幅:強。
 うっかりスイッチを入れ間違えたマッサージチェアのごとく前後に揺れた雪芽は、ぱんつが見えるのも構わずひっくり返ってしまった。
「あばばばばばばば」
「え、ええ!? どうかしましたか? まさか私のチョ…」
「お嬢様!」
 突然、マリが拡声器で叫んだ。
「お言葉ですが、素人の施す処置は逆効果になりかねません! 彼女はこちらでフォローいたします! お嬢様は、チョコを!」
「は……はい、ありがとう。でも、あの、このチョコ……」
 戸惑う白亜の前で、マリは巨大なハシの先からチョコを舐め取った。
「…………おいしいです! お嬢様!」
「ほ、本当ですか? よかった!」
 さっそく型に移しますね、と鍋に向き直る白亜。
 マリは、雪芽の巨体の影に隠れて、うっぷと口を押さえた。
(……何故ですか、お嬢様)
 マリの頭がぐらぐらしてくる。
(カレーや湯豆腐は作れるのに、何故――『甘いもの』は作れないんですか、お嬢様!!)
 じつは、巨大カカオ豆から作ったチョコを市場に流す代わり、こっそり普通のチョコとすり替えていた。
 白亜は大きいので、豆とチョコの区別はうまくつかない。
 だから白亜は、ただ単にチョコをすり潰して溶かしただけのはずなのだが……。
 しかも、この様子から見るに、雪芽が邪魔をしていたわけでもない。
 だが……
「えへへ……有家さん、喜んでくれるでしょうか……」
 不安と期待、信頼と甘酸っぱさの入り混じった白亜を見上げて、マリは真実を告げられなかった。


◆ ◆ ◆


 ――決戦当日。
 リカコが研究所としている無人島から、遠く離れた島国。
 どこもかしこもピンクムードの商店街に、突如として警報が鳴り響いた。
「ん?」
「何の音だ?」
 デートの邪魔をされた男女がいらいらと辺りを見回すが、災難は真上から降ってきた。
 ぐぉっと風を切って降下する靴の裏。
 遠目には華奢な可愛らしい脚が、街の大通りに踏み下ろされた。
「……有家さん。どこに隠れてるんですか?」
 かわいい、だが奇妙に威圧的な声が響き渡る。
 でっかいチョコを手にした白亜は、涙目で、キッと町を見下ろしていた。
「どこに逃げたんですか? あのメイドさんと一緒に!!」
 そう――
 チョコを作ったはいいものの、肝心の渡す相手を、べつの女に連れ出されてしまったのだ。
 しかも、おっぱいの超でかいメイドが下手人だと報告がある。
「リリィさん! 有家さんを返しなさーい!!」
 町いっぱいに響く大声で、白亜は絶叫した。


「……濡れ衣ですわ」
 ぶつぶつと独白する人物は、大型ビルの片隅に隠れている。
 バスケットボール級か、それ以上のたわわなバストの谷間を胸元から覗かせた金髪・童顔のメイド、リリィだ。
 周りを黒服に囲まれた彼女は、深いため息をつく。
「いくら私だって、意味もなく他人の恋路を邪魔したりはしませんわ……」
「だ……だから、こうして警護してやってるだろう」
 動揺しているのか、若干とんちんかんな返答をするマリに、じろっと睨まれる。
「いいか? 絶対に有家公斗をお嬢様に渡すな! その男が食中毒になろうとチョコ恐怖症になろうと正直どうでもいいが、お嬢様がショックを受けるのだけは耐えられん!」
「はいはい、ご依頼どおりに、っと……」
 リリィはこれ見よがしにため息をつき、欧米さながらに大きく肩をすくめて見せた。
 ちなみにリリィも、マリから試食サンプルを食べさせられ、白亜のチョコの破壊力を知らされていた。
「あれは人類の食べ物ではありませんわ……。あれが前途ある若者の精神を粉砕するような事態は、さすがに阻止せねばなりません」
 ひそかに壮大な決意を固める。
 と同時に、その豊満な胸の谷間に指を指し込み、1センチ足らずの男性をつまみ出す。
「……公斗様。今のマリ様との会話、聞こえてませんわよね?」
「聞こえるかっ! 音も何も届かない無間地獄だぞ!」
「それはよかったですわ」
 リリィにつまみあげられている、このちっぽけな男性こそ――大巨人、白亜の思い人。
 有家公斗である。
 記憶喪失中の実妹・リカコの改造により、圧倒的な耐久力を手にした超人。ただし、興奮すると体が小さくなる特異体質もオマケでついてしまったが。
 白亜との仲を認められるため超人になった彼と、その公斗を守るために巨人になった白亜は、ある意味でお似合いだが、見た目には両極端でもあった。
「……さっきまで3センチほどあったはずですが、体は正直ですわね」
「う、うるせー! もとに戻せ! 放せー!」
「あら? 放したところで、どうやって白亜お嬢様に気づいてもらうおつもりですの?」
 リリィは、1センチの公斗を、ぱっと手放した。
「痛っ」
 当人から見て高さ100メートル近くても、ケガひとつないのは、リカコの改造のおかげである。
「ふふふ、足元の公斗様を見下ろすと、まるでアリんこのようですわ。おチビさん♪」
「なっ……!」
 からかうように言われ、むかっとする公斗。だが、リリィはくすくすと笑う。
 遥か高みから見下ろされていると、公斗は自分の小ささを思い知らされている気分になってくる。
「私から見てもアリさんなのに、身長300メートルもある白亜お嬢様から見えるのでしょうか。きっとゴミ以下ですわね、気づいてすらもらえないまま、足の爪の隙間に挟まってしまいますわ」
「ぐっ……!」
「自分のちいささが理解できましたか? ふふふ、では改めて私が保護してさしあげますわ」
 リリィはそう言うと、公斗を親指と人差し指の間に挟んでつまみあげた。
「く、くそっ……やめろー!」
「ふふふ……なくさない場所に隠すのが何よりですわ」
 指の間で喚く公斗を、リリィは胸の谷間に放り込んでしまった。
 むっちりと寄せられ密着しあった豊満な乳房の谷間に、公斗の小さすぎる体は完全に隠れて見えなくなってしまう。
 悲鳴も抵抗も、弾力のある胸に全て包み込まれてしまっていた。
「あん……。このぐらいの役得はいただきませんと、安い依頼料ではわりに合いませんわ」
「……悪かったな、私のポケットマネーで」
 チッとマリが舌打ちする。
「独断で動かせる金は少ないんだよ……」
「で、あの白亜お嬢様の暴走をどう収拾つける気ですの?」
「うっ……」
 マリが呻く。
 外からは、白亜の恨み節が聞こえてきた。
「有家さぁぁぁん……どこですか――?」
 ズシン、ズシーンと足音が響き渡る。
 根が優しいからか、意図的に建物を踏み潰したりはしていないが、外を出歩いていた一般人は大パニックだろう。
「ひきこもり大勝利ですわ」
「……今日に限っては普段そうでもない男までひきこもりかねんがな」
「そういえば、前に仕えていた屋敷の旦那様がそんなかんじでしたわ……」
 リリィとマリがそんなことを言っていた頃――


 白亜は、ズシンズシンと町を歩いていた。
 不自由してはいないとはいえ、いつもは無人島。これだけ広い場所を散歩するのは少し楽しい。
 あとは公斗さえいれば……。
「……有家さ~~~~ん!」
 ずしぃぃぃぃぃん!! と足音が響き渡った刹那――
 うっかり、白亜は舗装道路から川に足を踏み出していた。
「あれ?」
 ぐらっと体勢が崩れる。
「わ、と、あ、はわわ」
 バランスをとろうと、ふらふらした挙句――
 白亜の体は、後ろに倒れる。

 ずごしゃああああああああああ

 淡い桃色ワンピースのおしりが、数多のビルを粉砕した。
「あぅっ!? や、やってしまいました……!」
 豊満な体型ではない、どちらかといえば控えめぎみな体型だが、さすがに身長300メートルともなれば、おしりも大きくなる。
 おしりの下で粉々になってしまったビル群。
 なんだか自分のヒップの破壊力を見せつけられるようで複雑だが、今はそんな場合ではない。
「お、押し潰したりしてませんよね……?」
 心配そうに掘り返していた白亜だったが、しかし。
 さすがに見過ごせないと、遅ればせながら戦闘機が到着した!
「え?」
 きょとんと立ち尽くす白亜に向かって、銃声が響き渡る。
 瞬間――
 上から降ってきた巨人が、銃弾を弾き返した!
『とぉう!』
 いきなり出現した巨人。
 白亜の前に現れたのは、関節が機械にしか見えない、インカムつき巨大娘だった。
「えーっと……チェーンソーのランチーさん?」
『ふっふっふ……バージョンアップなのれすよ、白亜しゃま』
 胸を張るランチー(仮)の胸元は、ぶるんぶるんと激しく揺れる。
 ぴったりした薄手のパワードスーツ(?)のせいで、突き出した胸とおしりがはっきり解る。
『巨大ロボ娘というコアな需要に乗じて人気獲得れすぅ――!』
 叫ぶランチ―、戸惑う白亜。
 付き合ってられんと思ったのか、戦闘機は帰ってしまった。
 ひとまず安心した白亜は、おそるおそる、ランチ―にささやく。
「……あの……ロボ娘さんが好きな人の大半は、物静かな女性が好みかと……」
『え……つ、つまり、ランチーver.2は……』
 思わずよろけるランチーに、どこからともなく声がした。

 ――産 業 廃 棄 物 デ ス ワ ネ

『うわぁぁぁ――――ん! グレてやるれすぅーっ!』
 全力疾走し始めたランチーは、町を踏み潰してビルを蹴散らし、そのまま川に突っ込んだ。
 大きな水しぶきが上がる。
『ふぁ……み、水が……!』
 川のド真ん中にM字開脚のように座り込んだまま、体がショートして動けなくなってしまう。
 白亜は助け起こすために、川の中に入ろうとしたが……
『ら……らめれす~……』
 じわぁぁぁぁぁと川が茶色く濁っていった。
 さすがに目を丸くする白亜。
「こ、これってまさか……っ!?」
「残念ながらスカじゃないわ! 体内に積んでおいたチョコが流れ出したようね!」
 いつの間にか、白亜の肩にちょこんとリカコが乗っていた。文字どおり、ゴミみたいに小さく見えるが。
「白亜ちゃん……『水くさい』じゃない。私に相談してくれれば、公斗を探す機械ぐらい、作ってあげたのに」
「えっ……そ、そんな。遠慮していたわけでは……」
「味がどうであれ、渡すことは応援するわ!」
『リカコしゃまぁぁ、大開脚状態で動けないランチ―はスルーれすか、このまま町の巨大オブジェとなるのれすか……』
「行くわよ、白亜ちゃん! 今日の私は、乙女の味方!」
 リカコは宣言するや否や、手にしたリモコンを起動した。
 刹那、できたてホヤホヤの某電波塔から放たれる、謎の電波!
「こ、これは? 耳がキーンとします」
「ふふふ……これはね、白亜ちゃん。特定のバストサイズに干渉し、巨大化させる魔電波発信機よ!」
 言い終わらないうちに、ビルが内側から吹っ飛び、リリィが巨大化しながら出現した。
「あぁぁん! 強制的に巨大化させられてしまうのも悪くないですわね……うふっ」
「……リリィさん! 有家さんを返してください!」
「返せも何も、私は依頼で……」
 ちらっとマリ達を見下ろすが、巨大化するリリィの肉体に弾き飛ばされたマリ達はすでに気絶している。
 これ以上の作戦続行に、後払いの50万円ほどの価値はない。
 が、しかし。
「返してください……わたくしの大切なひとです!」
 白亜の真剣な顔を見せられ、リリィの悪役ダマシイがうずうずし始めた。
 そして――
「……ふっ。返してほしければ、奪い返すとよろしいですわ!」
 つい言ってしまった。のりのりで。
 動き出しかけた白亜をけん制するように、リリィは胸を寄せる。
「はぅん……それにしても、公斗様も大変ですわね。1センチになったうえ、300メートルの私に胸で挟まれるなんて……」
「なっ! あ、有家さんをそんなところに!?」
「さっきの例え話が、ホントになってしまいましたわね。もう異物感さえありませんわ!」
 むぎゅう! と胸を寄せてしまう。
 豊満すぎる乳房が弾力たっぷりに変形し、双乳の接触面は、より激しく密着する。
「あ……有家さん!!」
「ふふふ……今ので、さすがにプチッと潰れてしまったかも知れませんわね。跡形もなく……あん♪」
「……ゆ……ゆ、ゆ」
「ゆ?」
「許しません!」
 完全にキレてしまった白亜は、チョコの川と化した大河に駆け込み、ランチ―の腕をつかんだ。
『ランチ―、ハイパーフォーム! ラストエディション! アルティメットスーパーライジングコスモミラクルケーオスマルチエンディングマスタークリトリスカイザー!』
 長いセリフが終わる頃には、ランチ―はすでにチェーンソー形態に変形している。
 リリィの脳裏を駆け巡るトラウマ。
「ちょっ……武器はナシ、刃物はナシですわ――!!」
「問答無用ぅぅぅぅっつ!!」
 うなるチェーンソーを、白亜は体全体を使って振り回す。振る方向と逆に体重をかけて振りぬく方法だ。
 ぐるんぐるん回る巨大白亜のチェーンソーが、ビルを豆腐のように切り裂く。
「きゃあああああああ」
 やっぱり追いつかれたリリィは、またしてもメイド服を破壊され、全裸で町に放り出されてしまった。
「ストップ! ストップ! わかりましたわ、もう返しますわ……」
「ふしゅーっ! ふしゅーっ!」
「んもぅ、冗談でしたのに……お嬢様ったら」
 全裸で町に座り込んだリリィは、ガスタンク以上に巨大な乳房を左右に分けた。
 が、おっぱいの表面には、しがみつく突起がほとんどない。
 相対的にゴミのような公斗の体は、谷間の乳圧から解放されるのと同時に、リリィの股間の割れ目に転がり込んでしまった。
 リリィや白亜が指で触れると潰してしまう危険があるので、結局マリやリカコが、巨大リリィの割れ目周辺をよじ登って公斗を探すことになったのだった。


◆ ◆ ◆


「…………ひどい目にあった」
 公斗にとってはビルのように巨大なクリトリスや、どこまでもパックリと続く割れ目の周辺を、リカコ達に気付いてもらおうとさまよった挙句、
 リリィのフェロモンに体が勝手に興奮・縮小していた公斗がつぶやいた。
 今は白亜の手のひらに乗っている。
「助けることができて、本当によかったです。有家さん」
「ありがとな、白亜」
「……大好きなひとなら、当然のことです」
 白亜は、そっとポーチから取り出したチョコを口で砕くと、舌先につけて、そっと差し出した。
「わたくひのヒョコ……受け取ってくれまひゅか?」
「…………」
 公斗は、目の前の巨大な白亜の顔と舌、それにチョコを見上げる。
「あぁ……ありがとう、白亜」
 公斗は、チョコに顔を埋める勢いで、口に含む。


 一方の足元では、マリ達がはらはらしながら見守っているわけだが。
「あぁ、心配だ……お嬢様がショックを受けてしまったら、私は耐えられない……!」
「……以前、あなたが裏切ってたと知った時は、相当ショック受けてましたわよ?」
「あれは事情があっただろ!」
「ダイジョーブよ。公斗は平気」
 みんなが不安に駆られる中、ひとり、リカコは落ち着いている。
『白亜しゃまを信じるれす?』
「うんにゃ。ふたりの理解者っぽいセリフ言ってみただけ」
『直前の名言をためらわず台無しにするリカコしゃま、さすがれす!』
「ぶっちゃけ、公斗って白亜ちゃんのこと異常に神聖視してるとこあるから、ギャップが激しすぎると……」
「それ以上は言うな!」
 はたして、公斗の出した結論は――















「おいしいよ、白亜」
 心底おいしそうに公斗は言った。
 白亜の表情も、花が咲くように笑顔になる。
「有家さん……うれしいです」
「お返しはホワイトチョコがいいんだったか?」
「何でもよろしいですよ。勝手にふらふらいなくなったりしなければ」
「……悪かったよ」
「いいえ。有家さんは悪くないです」
 ふたりが幸せそうに見つめあうのをこっそり見上げ、ボーゼンとするマリとリリィ。
 リカコはひとりで盛り上がっていた。
「むぅ……興味深いわ! 白亜ちゃんのヨダレが化学反応を起こしたのかしら? それとも、愛は全てを変えるのかしら!?」
「いや、たぶん……そういうんじゃなくて」
「さすがは超人、ってところですわね……」
 マリとリリィは小声でつぶやいたが、公斗と白亜は本気で幸せそうだった。



◆ ◆ ◆



 その頃、八分寺インテの家。

「ほーら、おまちどーさま。ナッツをチョコでくるんでみたよー」
 きゅーきゅーと歓声を上げるハムスター達に、ひとつずつ、チョコで包んだナッツをあげるインテ。
「加熱して溶かす時に、コツがあるんだってさ。白亜ちゃんが言ってた」
 余ったチョコを食べながら、ペット達の嬉しそうな姿を眺める、平和な時間……。

 その30分後、インテを含む全員が腹を壊して悶絶することになるとは、インテもハムスター達もまだ知らなかった。



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