「小悪魔なんてガラじゃない」

( 終 )



「……うわぁ。なによ、これ」

 伊月家から、電車で4時間、徒歩1時間。
 田舎のさらにハズレに建てられ、わたしがご先祖さまからもらった我が城は、今。
 ……ただの廃墟と化していた。

「窓は割れ放題、ツタは絡み放題……。森の奥地とはいえ、あんまりですわね」
「……真珠、わたし何年いなかったんだっけ?」
「13年ですぅ」
「こりゃ、中にもドウブツが住みついてそうね……」

 とはいえ、誰のせいでもないし、ましてや、伊月家でリリィを守り続けてくれた真珠を責めることはできない。
 9歳でメイドになったリリィがまともに読み書き計算・理科・社会を覚えたのは、真珠の努力あってこそだ。

「……ね、ねえ、リリィちゃん。ホントに大丈夫なんだよね……?」

 ついてきたメイド達が、不安そうにリリィを見ている。
 リリィの口車に乗せられたメイド数十名が、伊月家から移ってきたらしい。
 今さら古巣には戻れないだろうし……肝心の屋敷がこれじゃ、不安にもなるわね。
 もっとも、我が娘は余裕綽々、おおきな胸を自慢げに張ってるけれど。

「ふふ、安心なさいな、ミナ。商売の弾には困りませんわ。ねえ、シフォン?」
「「「ですのー!」」」

 シフォン達が歓声を上げる。
 その後ろには、どうやらリヤカーで引っ張って来たらしいマシンの数々。
 わたしの眠っていた地下室で、拾ったもののようだ。

「さ、まずは大掃除ですわ。商談のできる部屋がないことには、商売もできませんからね」
「鬼だわ……」
「悪魔め……」

 ぐちぐち言っているメイド達を引きつれて、意気揚々と廃屋に乗り込んでいったリリィは――

「く、くく、クモですわ――――!」

 ちっさいクモを髪にひっつけて、3分と経たずに逃げ戻ってきた。




◆◇◆◇◆◇




 ――『当主の寝室』からメイシアを連れ出した後。

「……お母様、足元に気をつけてくださいませ」
 全裸の幼女に自分のエプロンをつけさせ、周囲を警戒しながら先に進むリリィ。
「……庭に行けば、真珠が車を回してくれる手はずですわ。その後は――」
「……ここ、伊月家ね。わたし、どうなってたの……?」
「真珠の話では、13年前の『申し出』の際に、お母様の腕には注射器の跡ができていたそうです」
「……あの子、ほんとに、めはしが利くわね」
 シフォン達がいる地下室の大広間をできるだけ遠回りで避け、地下通路を進む。
 気温の低い地下通路は、保存液まみれに全裸エプロンのメイシアには、だいぶ寒そうだった。
「伊月家には、それ以前からバイオ技術の専門家が揃っていましたし……
 当主の性格からして、血液からクローン化したお母様を、どこかに隠して『コレクション』していると踏んだそうですわ」
「……で、ビンゴだったわけね。そうかぁ、わたしはニセモノかぁ……」
「いいえ。あなたは私のお母様です」
 はっきりと言い切ったリリィは、きょとんとするメイシアの前にひざまずいた。
 彼女の瞳が、涙で潤む。
「……ずっと……ずっと、会いたかったのですよ。寂しかった……」
「リリィ……。ごめんね、もうだいじょうぶよ」
 今では自分より遥かに年上に見える娘の頭を、メイシアは優しくなでた。
 嗚咽をもらすリリィをなぐさめながら、ふと、彼女は言った。
「……ところで、伊月はどこ? なんでこそこそ逃げなくちゃいけないの?」
「いえ、その……当主からお母様を奪うために、メイド達を手駒に引き込んだのですが……」
 はっと我に返ったリリィが顔を上げる。
「動揺させて扇動しただけで、彼女達がいつ我に返るか解りませんし……
 面倒なことが起こるよりも先に、お母様を安全な場所に移さなければ……」
「――リリィちゃん、面倒なことって何?」
 突然の声に、ギクッ、とリリィは硬直した。
 メイシアを首尾よく奪還して、気が緩んでいたことは否めないだろう。
 おそるおそる振り向くと、そこには――ミナを始めとしたメイド達が、じとっと怨念のこもった目つきでリリィを待ち構えていた。
「屋敷を乗っ取って、旦那様を追い出して、お金を奪う……んじゃなかったの?」
「あ、あら。言ったはずですわ、私の目的は『ソラツオーベル家の再興』だと」
 ふふん、とリリィは胸を張った。
 ボインと豊かな胸元が揺れる。一瞬、ミナ達はそちらに目を奪われた。
「……だ、だから、そうじゃなくて! さっき、こそこそ逃げようとしてなかった!?」
「う……いえ、その……それは……」
「…………」
 ミナ達は、狼狽する彼女を見つめた後――
 ぐるりとリリィを取り囲んだ。
「……あら?」
「リリィちゃん……私達を担いだんだね」
「許せないわ……」
「このオオカミ令嬢!」
「な、何ですの!? この私を愚弄すると――」

「こら、ケンカしないの。なかまでしょ?」

 メイシアが不意に、リリィとミナの間に割り込んだ。
 ケンカ腰のミナを見上げて、ニコリと微笑む。
「この子、へんなとこで詰めがあまいでしょ。ひとりじゃ何にもできないの」
「お、お母様、私はもう子供では!」
「あなた、わかい頃のわたしに、そっくりだもの。どうせ図星じゃないの?」
 割り込んだリリィの反論を一蹴したメイシアは、ミナ達に笑顔を向けた。
「わたしがいないあいだ、いっしょにいてくれて、ありがとね」
 幼女の悪意のない笑顔に、毒気を抜かれてしまったミナ達は、互いに顔を見合わせた。
「……う……ま、まぁ、屋敷は完全に制圧したわけだし……旦那様をどうにかすれば、石にされちゃうことはないわけか」
「でもさ、この後って、どうするのよ?」
「そうよ、よく考えたら丈斗様をどう納得させるのよ?」
 メイド達が今さら気が付いたように言った。
 はっ、とミナは我に返る。
 たとえ、リリィとの取引を手土産に帰ったところで、伊月家との取引を崩壊させたら、実家としてはむしろ大赤字。
 優秀な姉達に、自分を認めさせるどころではなくなる。
「リリィちゃん、何か……考えてる……んだよね?」
「ええ、もちろん」
 くすっ。リリィは人差し指を唇に添えて、イタズラっぽく微笑んだ。
「丈斗様は、私にホレてますもの。ふふ……ミナ、女って怖いですわね」
「え? そ、それって、つまり……色仕掛け?」
「……思考回路が、わたしといっしょね。血はあらそえないか……」
 メイシアが肩をすくめる。
(でも、血があらそえないのなら……「彼」も、伊月と同じ……)

「――リリィ!」

「!」
 聞き覚えのある男性の声がして、リリィは今度こそ本気で震えあがった。
 弾かれたように振り向けば、そこにいたのは、ミティア――それに、3センチの丈斗。
 ミティアの肩に乗せられた丈斗は、むっとリリィを睨んでいた。
「警備部を眠らせ、地下室を占拠……それに、クローンの量産。ミティアから聞いたよ」
「……見ていましたのね、あなた」
 くっ、と歯ぎしりするリリィに、ミティアはフンと鼻を鳴らした。
「あぁ、見ていたさ。録音した証拠もある。警備部を舐めるなよ」
「…………っ」
 リリィは唇を噛む。
 彼女の後ろにかばわれたメイシアが小声で「伊月にそっくりね、彼」とつぶやいた。
 ミティアの肩に乗った丈斗は、彼女の耳を引っ張る。
「ミティア。僕をリリィに渡してくれないかな」
「了解ですぼっちゃま、私だって本気になれば非戦闘員の相手……はい?」
「僕をリリィに渡してくれないかな?」
 ミティアはもちろん、リリィも目を丸くした。が、丈斗はするするとミティアの体を降り始める。
「無理なら自分で……」
「き、危険すぎます! 3センチがどういう大きさか理解していますか!?」
「……知ってるよ、もちろん。何度も想像したぐらいだ」
 あっという間にミティアの足元にまで下りてしまうと、丈斗はリリィに歩み寄って行った。
「リリィ、君は昨日の夜、僕に言ったよね?」
「……ええ、言いましたわ。薔薇をいただいたあの日から、私の想い人はただひとり」
「そう。僕もだよ、リリィ」
 リリィのすぐ近くに立った丈斗は、仰ぎ見るようにしてリリィを見上げる。
 周りにはミナやメイシア、メイド達もいるが、その全てが3センチの彼から見れば巨人だ。
 特にリリィは、たわわに揺れる胸が影を作り、その下乳の影に入るとリリィの顔が見えないほどだ。
「……君の本性なら、とっくに理解してる」
「え……?」
「少なくとも、君がちいさい生き物をなぶるのが好きな典型的なサディストだってことは知ってる」
「うぐっ!?」
 リリィの顔が真っ赤になるが、丈斗は気にせず続けた。
「あの日、アリを踏んでいた、君の笑顔を初めて見てから……僕は他の女に恋したことはないよ」
「はぅ!?」
「……アリを踏んでた?」
「……わたしのむすめだわ、やっぱり」
 周りがひそひそ言うのが嫌でも耳に届き、リリィは慌てて丈斗をわしづかみにして捕まえた。
「た、丈斗様! そういう暴露は……今ここでは!」
「僕は君が悪女でも、小悪党でも構わない」
「!」
 リリィに強く握りしめられながらも、丈斗はなんとか笑顔になって見せた。
「――好きだよ、リリィ。ずっと一緒にいてくれないかな」
「…………っ」
 言葉に詰まったリリィは、視線を外そうにも、丈斗の眼差しがそれを許さない。
 真剣な視線に見つめられた彼女は……
 へなへなと、腰が抜けたように座り込んでしまった。
「……こんな私でも、愛してくれるのですか」
「うん」
「……13年も、母親のことばかり考えて他人を振り回すマザコン娘を?」
「ああ」
「……そのお言葉、信じますわ。一生に一度、心の底から」
 リリィは、握りしめたままの丈斗を、自分の口元に持って行った。


「愛しています――私の、ご主人様」


 紅いリップの唇で、包み込むようにキスをした。




◆◇◆◇◆◇




 ――数日後。

「……で、これが本日のスケジュールと参考資料です。当主殿、聞いておられますか?」
 資料の束を机の上に出された丈斗は、精根尽き果てた様子で突っ伏してしまった。
「……もうヤダ……リリィに会いたい……」
「彼女を守ると誓ったなら、あなたが一人前の当主として、彼女の爪痕を埋めるしかありません」
 きっぱりと言い切ったミティアは、腰に手を当てて苦々しげに言った。
「……まったく、そもそも当主殿は甘すぎます。
 先代を行方不明にさせた上、屋敷のメイド数十名を引き抜いた悪女に本気で入れ込むとは……」
「あ、そうだ、ミティア。リリィから手紙が来たんだけど」
 ツンとそっぽを向く。
「見たくありません」
「ふーん。でも、ミティアってネコは好きじゃない?」
「!?」

 ビクッ!!

 おおげさなぐらい反応したミティアは、ギギギギっと古びた人形のように振り向いた。
「な、何だと……いや、何ですか。リリィ? ネコ?」
「うん、写真が入っててさ」
 取り出した写真を、ぴらりとミティア側に向ける。
「これ、白っぽい子猫がリリィにイジられてるとこ――」
「うわぁああああああ!!」
 ミティアは思いっきり丈斗に飛びついて写真を奪おうとするが、丈斗はひょいと手を引いてかわした。
「ああ、これやっぱりミティアなんだ。文面で匂わせてるからピンと来たよ」
「あ、あの女……っ! やはり私の弱みを握るつもりか!?」
 屈辱のあまり顔を真っ赤にするミティアに、丈斗は思わず噴き出した。
「笑いごとではありません! 家同士の間柄で、他家の使用人を辱めるなど……!」
「これ、どういう状況だったの?」
「……先日、当主殿の指示で、あの女の野営地点に缶詰とベニヤ板を届けに行った時です」
 歯噛みしながらミティアは言った。
「出された紅茶を飲んだ途端、意識が遠くなり……
 気が付いた時には、辺りは巨人だらけ、自分の体は子猫になっていました」
「へえ、すごいな」
「捕まってしまった私は、あごをいじられたり、わきや腹をくすぐられたり……
 胸の谷間におさめられたりと、辱めを受け続け……っ」
「むしろ、うらやましい」
「結局、なんとか逃げ出して……森の中で休んでいる間に、もとの姿に戻っていたのです」
「ふーん」
 写真を眺める丈斗に、ミティアは手を突き出した。
「で、ですから……その写真は、私が処分を――」
「ミティア、リリィのとこ行ってみる?」
「は?」
「リリィのとこには今、普通のメイドしかいないしね。
 それに、警備部に配属するのなら、初対面の人間よりも素性が解ってる人の方がいいだろうし」
 丈斗は机の上で手を組むと、ふっと意地悪く微笑んだ。
「僕はさ、リリィって、相手の実力には敏感だと思うんだ。自分の安全は真っ先に見極めようとするタイプだからね」
「……何がおっしゃりたいのです、当主殿」
「今までの関係はどうあれ、ミティアのことは歓迎してくれるんじゃないかなぁ」
 かぁっ、とミティアの頬に朱が差した。
「ん?」
「……そ、その底意地の悪さ、先代に似てきましたね……当主殿」
「こないだ、綺麗ごとじゃ家を守れないって言い出したのミティアじゃなかった?」
「それとこれとは話が……」
 ちらちらと視線をそらすミティア。顔は紅いままだ。
「……し、仕方ありませんね。出向という形でなら……その……し、失礼します」
 そそくさと書斎を出ていくミティアを見送った丈斗は、再度、写真に目を向けた。
 リリィにもてあそばれ、かわいがられ、まんざらでもなさそうな子猫の顔。
「……これ、あのミティアが癖になるぐらい気持ちよかったのかな?」
 もしかしたら、警備部のミティアを引っ張り込むための作戦だったのか。
 だが、丈斗は「それでこそリリィだ」と感じ、離れた場所にいる彼女を思い出して嬉しくなってくるのだった。




◆◇◆◇◆◇




「……だいぶ、片付いてきたんじゃないかしら?」
「ええ、そうですわね、お母様」
 ソラツオーベル邸の中を歩きながら、メイシアとリリィは言った。
 とりあえず大広間で野宿をしたかったのだが、留守にしていた12年間で、野良猫の住処になっていたらしい。
 さらに悪いことに、シフォン達がうっかり野良猫を『擬人化』してしまった。
 幼い5匹の娘を必死にかばうネコ娘(母)を見てしまっては追い出すに追い出せず、引き取り手が見つかるまで、メイド達は中庭で野宿している状態だった。
「真珠がひとりで一日ひと部屋、片づけてますからね……この分だと、来月には大広間以外、何とかなりそうですわ」
「なんでネコちゃんたちは、わざわざ大広間に巣をつくっちゃったのかしらね……」
「置きっぱなしだったデスクが気に入ったのではありませんか?」
 そんなことを言っている間に、屋敷の奥までたどり着く。
 メイシアとリリィは、それぞれの部屋に入って行った。


「……どうも、お客さま。遠路はるばるようこそ……ふふふ」
 ひとまず必要なものだけ押し込んだ個室には、ソファに腰掛けた美女と、銀髪の小柄な少女が立っていた。
 美女と向かい合って座ったリリィは、胸の谷間から出した小瓶と、小箱を並べて置く。
「その小瓶が例のモノですわ。小箱の中身は、まぁ……サンプルですので、お好きに」
「…………」
 美女が小箱を開けると、箱の中から、小さな悲鳴が上がった。
 それを見た美女は満足げに微笑むと、小瓶と小箱を鞄に入れて、小切手を置いて去って行った。
 ふぅ、とため息をついたリリィは部屋の片隅に置いた衣装棚に歩み寄る。
 残っていた少女へと、視線を投げかけた。
「それで、子猫さん。あなたは何の用ですの?」
「子猫じゃないわ。リノよ」
「あらあら。それで、子猫のリノさんは何の用ですの?」
「……私の標的を、渡してもらおうと思ってね」
「これのことですか?」
 胸の谷間の奥深くからつまみ出したコイン……の姿になったファムを、リノの方に弾いて見せる。
 くるくると宙を舞ったコインを、ぱしんと空中でキャッチしたリノは、手のひらに乗ったコインを確認した。
 ぶざまに圧縮され、押し潰され、身動きひとつ取れないファム。
 リノは、ふんと鼻で笑った。
「……消したも同然ね」
 ぴんと指で弾いて、リリィの方に返す。
 コインはリリィの胸に当たって、ぼよんと跳ね返った。
「いらないわ。好きにすれば?」
「まぁ。では、ありがたくいただいておきますわ」
 言い終わる前に、リノはさっさと部屋を出て行ってしまう。リリィはちょっとだけ残念そうに立ち尽くした。
「……ネコみたいな方ですわね、相変わらず」
「うっ……くっ……!」
 床に転がったファムは、動かない体を必死によじって逃げようとしていたが、コインの姿では動けるはずもない。
 ひょいっと拾い上げたファムを、リリィは宝箱型の小物入れに放り込んだ。
「……ど、どうするつもりですか。私を……!」
「どうもいたしませんわ。強いて言うなら『コレクション』です」
 くすり。
 リリィは不敵な微笑みを浮かべた。
 それだけで、彼女の「本質」をファムは嫌でも理解してしまう。
「あなたなら、解ってくれるでしょう? ……私は、こういう女なのですよ」
 似たもの同士。
 決定的に違うのは、片方が「人間の女」で、もう片方が「ちっぽけなコイン」であることだけだ。
 一方的に所有され、支配される関係。それが「モノに姿を変えられる」ということである。
「……この小箱ですか? これからの、私の住処は」
「そう、永遠に。しかし、蒸れた巨大な谷間に挟まれているより快適でしょう?」
 ファムの視線が、リリィの豊満すぎる胸元に向いた。
 小箱の中と、胸の谷間。どちらも、人間としての尊厳を砕くには最適な場所だ。
 ぱこん、と小箱のふたを閉めてカギをかけたリリィは、小箱を棚の奥に押し込んでしまった。
「……さて、と。ずっと入れていたコインがなくなって、寂しくなりましたわね」
 メイド服のエプロンから、リリィはマッチ箱を取り出す。
 開けると、中には1センチにまで縮められた男達が3人、閉じ込められていた。
 マッチ箱の中で「巨人だ!」、「もとに戻せ!」と騒ぐ男達を見たリリィは、にやりとほくそ笑んだ。
「ごきげんよう、虫けらさん達。私と楽しいことがしたかったのでしょう?」
 彼らは、伊月家から電車で移動する途中、リリィの胸を触ってきた男達だった。
「これが私のお気に入り……『縮小薬』ですわ」
 リリィは色のない液体が入った小瓶を揺らす。
 ひとけのない駅で縮小薬をかけられた男達は小さくなり、捕まってマッチ箱に閉じ込められていたのだった。
「さぁ、3対1で結構ですわ。私を楽しませてくださいませね」
 マッチ箱を、くるりとひっくり返す。
 騒いでいた男達は、リリィが指先で広げていた胸の谷間に、吸い込まれるように消えていった。
 抱えるほど大きな胸は、数十センチもの深い谷間を作っている。
 1センチの豆粒サイズになった男達は、這い上がろうにもリリィの汗で登れない。
 男達の左右にそびえる巨大な壁は、弾力があると同時に体温を持っている。
 挟み潰されるよりも前に、高温と汗で、蒸し殺されてしまいそうだった。
「ふふ、くすぐったいですわ」
 谷間を広げていた手を放すと、ぱふん、と谷間は閉じてしまう。
 外からは、谷間に埋もれてしまった小さな男達を見つけることは不可能だった。
「はぁ……」
 谷間に挟み込んだ男達の存在を思うと、リリィの胸は高鳴った。
 何より、男達が絶望し、乳房の狭間で屈辱を味わっていると思うと、快感を覚えてしまう。
 真珠がひそかに仕込んできた『女王の帝王学』は、もともと女王気質のあった彼女を生粋のサディストにしていた。
「……こんな私でも、丈斗様は愛してくださるとおっしゃいました」
 リリィは暗い部屋の中で、ごくりと生唾を飲み込んだ。

「もう、縮小薬なしでは、カラダが耐えられませんわ……。
 ……遊戯を開催して、男を呼び寄せましょう。
 ゲームの勝者には賞金を、敗者には玩具としての運命を。
 きっと大勢、集まりますわ。暗い森の中、華に誘われ、寄り集まる虫のように……」

 リリィは微笑みながら、ぐっと胸を寄せる。
 3つの豆粒が、谷間であっけなく潰され、粉々に弾けるのを感じた。
 窓の外では、屋敷を囲む深い森が、そよ風に揺られてさざめいていた。




◆◇◆◇◆◇




「……もう、真珠ったら。あの子には、せわになってばっかりね」
 メイシアは、薄暗い部屋の片隅に置かれた石像を見つめながら、ぽつりと言った。
 ぴくりとも動かない石の像を、優しくなでながら、メイシアはつぶやいた。
「……13年ぶりね、伊月。ほんもののわたしには、じごくで会えたかしら?」
 からかうように微笑むが、彼が反応することはない。
「それとも……まだ意識がある? ニセモノのわたしでも、ずっといっしょにいてくれるのかしら」
 石像の頬へ、愛しげに触れたメイシアは、ほぅ、と熱いため息をついた。


「……わたしは悪魔ね。こんなに、うれしいんだもの」





 To be Continued...

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